童謡から浮かぶ自然の情景
日差しが明るくなり、肌寒いながらも吹く風に"春の香り"を感じる季節になると、幼い頃に教えてもらった童謡『春が来た』が浮かんできます。
♪春が来た 春が来た どこに来た 山に来た 里に来た 野にも来た♪
皆さんもよくご存知のこの歌です。歌詞には「嬉しい!待っていた!」という言葉は一言も入っていませんが、言葉の隅々に待ちに待っていた春が来た喜びがあふれているように思います。そしてこの歌を口ずさむたび、どこからか漂ってくる梅の花の良い匂いや小鳥のさえずり、菜の花やおおいぬのふぐりが咲いた土手の甘く土臭い匂い、少しほこりが立ったような霞んだ風景、まぶしいほどに光り輝く川面、おままごとに使ったタンポポの花びらの柔らかさや茎の青臭い匂いなどが、一斉に思い出されます。きっと幼い頃から積み重ねてきた様々な実体験が呼び戻され、私の五感に鮮やかに蘇ってくるのでしょう。
キンダークラスのお子様方は、今まさにその実体験を積んでいる時期です。
♪さいた さいた チューリップの花が♪と歌うだけでは、言葉を覚えることしかできませんが、本物のチューリップの鮮やかな色を見せ、ピンと張った茎や波打って開いている大きな葉に触れさせ、花びらの中を覗いては、黒いおしべを兵隊さんに見立てて数えるなどの遊びを一緒に楽しむことで、季節を感じさせ、心の中に「春」という知識の引き出しを作ってやることが出来ます。この引き出しを、言葉ばかりでなく、匂いや、肌触り、音、映像、味わいなどで溢れさせ、思い出でいっぱいにしていきましょう。それが、さらなる知識へとつながります。
いろいろな経験をし、たくさんの思い出を持つお子様ほど、知識も豊富です。ドキュメンタリービデオや図鑑を見せる方が効率が良いと思われるかもしれませんが、経験が伴わない知識ほど儚い物はありません。お子様には、ぜひ、実体験の伴った奥行きの深い知識を持たせて差し上げてください。
♪でんでん むしむし かたつむり♪と歌うとき、萌ゆる青葉の上をのんびりと触覚を動かしながらゆっくり進むカタツムリの姿や、その傍らに咲く紫陽花の花が蘇るように...
♪どんぐりころころ どんぶりこ♪と歌うとき、北風の冷たい感触や、艶やかな木々の紅葉、落ち葉を踏みしめる靴底の感覚が蘇るように...
将来、成長したお子様が、ふと子どもの頃に覚えた童謡を口ずさんだとき、頭の中の引き出しからたくさんの思い出が溢れ出すように、今、お母様方には、わが子にプレゼントを渡すような気持ちで、一緒に歌を口ずさみ、実体験を積ませてあげていただきたいと思います。
これも実体験のなせる業でしょうか。♪もういくつねると お正月♪と歌うたび、私には、弟とこっそりかじりついた出来たての鏡餅の、ほんのり温かく柔らかな感触と、優しい甘さが蘇ります。そして、「鏡餅をかじるなんてとんでもない!」と、台所に正座させられ、祖母にたっぷりと叱られたときの足の痛みまでも...
〜次回掲載は4月4日の予定です〜