お子様の『お絵描き』が始まったら
お子様がクレヨンを持ってたったひとつの点を描いたときから、
いえもっと言えばクレヨンを落として紙や床に色がついた瞬間から、
お子様のお絵描きへの好奇心は始まります。
初めは意味を持たないなぐり描きをしているうちに、徐々に線が変化し、クレヨンをたたくようにしながら点や短い線を描くようになり、次第に長い線や波線も描けるようになります。
さらに、車を思い浮かべて「ブッブー」とつぶやきながら描くなど意味を持たせた絵へと発展し、そのうち丸や渦巻きなどの形を使って「これママ、これバス」と、はっきり意味づけをしながら思いつくものを次々と描き並べるようになっていきます。断片的にお話をしながら夢中になって描き続け、でき上がるとその絵を誇らしげに見せながら表情豊かに説明するお子様を、お母様方はとても愛らしく微笑ましく感じられることでしょう。
ところでこのようなお絵描きが始まると、
「たくさんの色を使って欲しいのに、いつも一色だけ」
という声がお母様方から聞こえてきますが、お絵描きに興味を持ち始めたお子様にはよくあることです。
この頃のお子様は、色よりも手を動かす感覚を楽しんでいるのでしょう。
お子様にとって、手を動かすとその通りの線や形ができることは大発見であり、驚きであり、喜びなのです。黙々とお絵描きに集中しているお子様は、クレヨンを持ち替える時間さえ惜しいのかもしれませんね。また、
「暗く汚い色ばかり。もっときれいな色で描けばいいのに...」
という声も耳にします。そもそもきれいな色ってどんな色なのでしょう?
以前3〜4歳児と話していたとき、ある子は動物の毛を思い出させる茶色や灰色を、またある子は海や空を連想させる青色や水色を、『暖かい』と感じていることに気づきとても興味深く感じました。
私たちが色を見て『きれい』とか『汚い』と感じる背景には自身の経験があるのですが、それと同じようにお子様も自分の生活体験からイメージしているのですね。
もしかすると『きれいな色』も、お母様とは違っているのかもしれませんよ。
色への興味はいつか必ず湧いてきます。色を使い分ける楽しさにお子様自身が気づくまで、お子様の横でいろいろな色を使ってお絵描きをしながら、笑顔で見守っていませんか。
さて、お子様がお絵描きをするようになったら、楽しく自由に描ける雰囲気を作りましょう。そして、出来上がった絵を一緒に見ながらお子様の話をじっくりと聞き、誉めるようにしましょう。
ここで大切なことは、具体的に誉めることです。漠然と「上手ね」「がんばったわね」ではなく、面白い表現や工夫を見つけ、
「まっすぐな線がしっかり描けたわね」
「電車の長いところがよく似ているね」
「大きくて優しい目がそっくりね」
というように誉めるほうが、お子様の心の落ち着きや成長にもつながると思います。
お子様のお絵描きはお母様に認めて欲しいという心の現れであり、何かを語る手段なのですから。
笹尾 和子 (横浜元町教室)