お子様の心を受けとめていますか?
「どのようなお子様に育って欲しいですか?」
この問いに、多くのお母様方はこう答えます。
「やさしく、思いやりのある、他人の気持ちがわかる子供に…」
母親として当然の願いです。ところが、この願いとは反対に、人の気持ちがわからない子供になるように仕向けていることはありませんか?
お誕生から3歳頃までは、人間の一生のうちのどの時期をとっても他に例がないほど著しい発達をしていきます。3年間で、体重は生まれた時の3倍に、身長は2倍以上に。身体の機能も発達し、行動もどんどん活発になります。
この時期は、目に見える身体の発達と共に心も成長し、複雑な感情を持てるようになってきます。できなかったことができると得意になったり、お兄ちゃまやお姉ちゃまに負けじとがんばったり…。
体験を通して楽しむ心や挑戦する心、感動する心も育ってきますし、「かわいい」「きれい」「好き」といった評価を伴う感情表現もできるようになります。
その一方で、不安、怒り、憎しみ、嫉妬、苛立ちといった、歓迎されない感情も発達してきています。
様々な感情が発達するということは、『嬉しい』や『楽しい』と同時に、『悲しい』や『寂しい』も感じるということです。つまり、この時期の子供は、表現すれば喜ばれる感情と、歓迎されない否定的な感情が、同時に育っているということなのです。
ところで、こんなことはありませんか?
お母さまと公園に行き、おもちゃでご機嫌に遊んでいたら、近くにいた子が、そのおもちゃを取って行ってしまいました。
おもちゃを取られた子は、「ワーッ」と泣きます。
「他にもおもちゃはたくさんあるでしょ」とお母さまが言っても泣きやみません。
別のおもちゃを渡してあげても、まだ「ワーッ」。
他の遊び場に移動しても、まだ「ワーッ」。
「そんなにいつまでも泣いているなら、もう公園に来ませんよ!」というお母さまの言葉で、さらに「ワーッ」。
とても嫌なことが起きて、嫌な気持ちが体中を駆け巡っているのに、お母さまに怒られてしまいました。
気を取り直して、滑り台に向かって走って行ったら、つまずいて転んで「ワーッ」。
「痛くない!そのくらいで泣かないの」
痛くて泣いたのに、また怒られてしまいました。
「だいたい、あなたが公園に行きたいって言ったんでしょ!」
もう立ち直れません。
大好きなお母さまだから安心して気持ちを伝えたのに、悲しかったり、悔しかったり、辛かったり、痛かったり…、そんな嫌な気持ちを伝えようとする度に叱られていたらどうなりますか?そのうちお子さまは、「嫌な気持ちは表面には出してはいけないのだ」と判断するでしょう。「感じることさえいけないことだ」と判断するかもしれません。
自分で感じなくなってしまった気持ちを、他の人に対して感じられないのは当然です。これでは、他人を思いやる心は育ちません。悲しみを感じないように育てられた子が、他人の悲しみを思いやれるはずなどないのです。
思いやりのある子に育てたければ、まずは、その子自身が自分の中に沸き起こる様々な感情を持つことを許され、さらに、それを表現した時に、周囲の大人から受け止めてもらえたという安心感を経験することが大切です。
「悲しかったね」、「くやしかったね」、「痛かったのね」と声をかければ、そのひと言で子供達は、沸き起こってきた嫌な感情を静かに自分の中に納めることができるはずです。嫌な感情を自分の中に抱えているから、他人の悲しみや辛さに共感したり同情することができるのです。
「楽しさや嬉しさはいいけれど、悔しさや辛さを感じてはいけない」。あなたはお子さんに、こんな悲しいメッセージを送ってはいませんか?
曽我みどり (吉祥寺教室)