さすが老園長のお言葉 〜二つの要素〜
いよいよ秋が深まってきました。この近くの樹齢90年のイチョウ並木も、沢山の実を地面にまき、その葉は黄緑から黄金色へと変わり、秋晴れの澄んだ空へ向って美しい姿を林立させています。
私たちの周りでは、幼稚園就園期を迎えようとするお子様達があちらこちらの園を受験されたり、入園申込みの為にご両親が早朝から幼稚園に並ばれたりと、大忙しの季節でもあります。
以前、ある幼稚園の園長先生に、「貴園ではどのようなお子さんを望んでいらっしゃるのですか?」と単刀直入に伺いましたところ、白髪の老園長は、笑顔を湛えながらも即座にキッパリと、「集中して遊べる子、そしてお片づけのできる子ですね」と、おっしゃいました。そのお答に、「あー、やっぱりそうなのか」と、深くうなずく私がいました。
私のうなずきの一つは・・・
子供の為の心理療法に、プレイセラピーがあります。これは、様々な不適応状態を解消していく際に用いられる療法なのですが、言語活動が充分でないためカウンセリングでの言葉のやりとりが難しい年齢の幼児に用いられることが多いようです。
では、なぜこの方法に効果があるのかといいますと、子供は好きな遊びには大変集中し、夢中になって遊ぶからです。よくいわれる「我を忘れて」という状態が、心の奥に押し込んだ不満や不安を発散させるため、夢中で遊ぶことによって、不適応状態を解消する方向に導くことができるというのです。
このプレイセラピーに限らず、好きなことをしている子供は、大人も驚くほどの集中力を見せることがあります。
あるお宅の引越しの時の子供達の話です。
部屋に畳んで置いてあったダンボールを見つけると、すかさずそれを広げ、夢中で家作りを始めました。クレヨンで色を塗ったり、くりぬいて窓やドアを作ったり。窓もドアも、開け閉めができる可動式でした。
ひとしきり遊んだ後、この家は基地に変身。外には敵がいると想定して、攻撃開始です。こんな時のお子様は本当に勇ましい!『役になりきる』様子から、イメージの世界を楽しんでいることがよくわかります。こうした様子を見ながら、『この能力がお勉強にも発揮されれば』と願う親御さんや先生も多いのではないでしょうか。
二つ目の私のうなずきは・・・
太田あやさん著書『東大合格生のノートは必ず美しい』(文芸春秋刊)でも感じたことです。その本の中で紹介されているノートは、見出しをつけて見やすくしたり、予習・授業・復習の欄を設け余白を多くとっていたりと、見事に整理されています。それぞれ工夫があって、私にも「あー、きちんと書いてあるなぁ」とわかるくらいでした。(著者曰く、東大生のノートには、「とにかく文頭は揃える」「写す必要がなければコピー」など、「と・う・だ・い・の・お・と」を頭文字にした7つの法則があるとのこと。この先にご興味のある方はぜひどうぞ)。
私がこの本を読んで強く感じたことが3つありました。
1つ目は「集中力」です。
彼らの授業中の集中力が半端ではないのです。一言一句逃さぬよう、ペンを持ちかえる時間も無駄にしないようペンを2本持ったり、シャープペンだけと決めたり。集中することへの意気込みが違うのです。
2つ目は、「整理分類する力の見事さ」、そして3つ目は、「家族の力」です。
両親はもとより、病気闘病中の祖父母までがその子の合格に向けて応援している温かさが感じられるのです。
これは高校生の話ですが、彼らの集中力は幼い頃から培われたものだと思います。なかには小さい頃からお勉強ができたとは言えない子もいるようですが、遊びや物事に集中できる環境が、家の中にたくさんあったのでしょう。
子供を育てる時には、子供が今何をしているのか、何をしようとしているのかをよく知ること、子供をよく観ることが大切です。
せっかく集中して何かをやろうとしているのに、親の都合で阻害してしまってはもったいない。もちろん、親はいろいろな仕事をしながら子供を育てていますから、一日中子供の様子ばかり見ているわけにはいきません。必ず目を離す、空白の時間があります。
でも、その間にも、子供は刻一刻と興味ある"遊び"を見つけては展開しているのです。子供に注意を戻した時、すぐに声をかけるのではなく、まずは「今、何をしようとしているのかしら?」と、じっくり子供の様子を観察してみましょう。もしかすると、「集中力」が育っている真っ最中かもしれません。
さらに、お片づけは子供にとっても楽しいことではないでしょうが、きちんとやらせること。この日々の所作が、成長してからの抜群の「整理・分類力」へとつながっていくのですから。
老園長の二つ挙げてくださったポイントは、子育て、そして人間育ての中の大切な要素、とつくづく再確認をした次第です。
目良 紀佐子 (成城教室)