心と心の結びつき
お母様方からよく相談されることです。「ウチの子、落ち着きがなくて困ります。じっとしていないんです。少しも椅子に座っていなくて、集中できなくて…。落ち着きのある子にするには、どうしたらいいのでしょう」。そんなとき、私どもは「お母さんと心の結びつきはできていますか」と伺います。お子様は誰でも、興味のあることに出会えば落ち着く力を持っています。ただ、お母様との関係が不十分だと、その力が発揮できないのです。
また、このような相談もあります。「心配性で引っ込み思案で困ります。いつもみんなの中に入っていけなくて…」。私どもはやはり、「お母さんと心の結びつきはできていますか」と伺います。新しい環境、初めてのお友達、初めての場所は、お子様だってとっても不安。でも、何があってもお母さんが見守っていてくれるという安心感があれば、一歩踏み出す勇気がもてるはずです。
「心と心の結びつき」 子育てに奮闘中のお母様方は、よく耳にされることでしょう。思春期の不安定な時期でも、小さい頃に心がしっかりつながってさえいれば、何があっても乗り越えられると言われていますし、小さい頃に安定した親子関係が築けるかどうかは、その子が将来安定した人格を持てるかどうかの一生の問題に関わるほど重要なことだとも言われています。お子様がお母様との「心の結びつき」を受け取る時期は、1才から3才。今、皆さんがキンダーに通われているこの時期が、とてもとても大切なのです。
では、「心の結びつき」はどうしたら深めることができるのでしょう?
お子様が生まれたばかりの頃を思い出してみましょう。一人では何もできない赤ちゃんを献身的に世話していた頃は、お母様は我が子を分身のように思い、強い結びつきを感じていらしたことと思います。表情がでる頃になると、ほほえみながら我が子の顔を見つめ、目と目を合わせるだけで親子のつながりを感じることができました。言葉を介さなくても、気持ちが通じていることを感じられたと思います。やがて、すべてを母親に頼っていた時期は過ぎ、一人で歩き、一人で食事をし、言葉数も増えてきます。自分の意志を持ち、反抗期がやってきます。以前のようにおとなしく腕に抱かれていてはくれません。それでも1才から3才までの今が大事と聞き、「いやー」を連発するお子様を相手に、つながりを深めようと四苦八苦しているお母様は多いのではないでしょうか。
お子様と一緒に、同じものを眺めてみるのはいかがでしょう。
一緒に歩いていると、子供たちは大人が気付かない様々な物に目を止め、立ち止まることがあります。そんな時、お子様が眺めているものを、お母様も一緒に眺めてみるのです。
私どもの教室の玄関先にはメダカの水槽があり、キンダーの行き帰りに子供たちがよくメダカを眺めています。そんな時、「早く行きましょう」とせかすのではなく、お母様も一緒に眺めてみてはいかがですか?同じものを見つめながら、しばしの時間ともに過ごすことで、親子の間に一体感が生まれ、心と心がつながるひとときとなるはずです。長い時間でなくていいのです。説明や解釈の言葉もいりません。お子様は、お母様が自分と同じ物を見てそばにいてくれることに、大きな安心を感じるはずです。
日常の中のほんのひととき、親子で同じ物を眺めてみる。その小さな積み重ねが、お子様とお母様の心をしっかりとつないでいくような気がします。
イギリスの小児科医D.W.ウイニコットの言葉に「ほどよい母親(good enough mother)」という言葉があります。「生後間もない我が子に献身的に世話をする時期が過ぎたら、子供の成長に合わせてほどよい対応ができる母親になることが大切」という意味です。子供たちは日々成長しています。その成長に合わせ、向き合わせていた顔を、横並びの位置に変え、心のつながりを深めていかれることを願っています。
曽我 みどり (吉祥寺教室)