絵本紹介
絵本紹介
文 筒井 頼子
絵 林 明子
福音館書店
“みいちゃん”は 5 歳の女の子。ある日、ママが言いました。「みいちゃん、ひとりでおつかいできるかしら」。“みいちゃん”は驚いて飛びあがります。今まで一人で出かけたことなど無かったからです。でも、“みいちゃん”は、元気に答えます。「もう、5つだもん」。
ママからもらった二つの100円玉を握り締め、“みいちゃん”の大冒険が始まりました。勢い良く走りぬける自転車を塀に張りついてやり過ごしたり、お友達の“ともちゃん”と出会ってお話ししたり、坂道を駆け登ろうとして転んだり…。
ようやくお店に着いたのに、誰もいません。深呼吸をして、「牛乳下さい」と言った“みいちゃん”。大きな声を出そうとしたのに、なぜか小さな声しか出なくて、誰も気づいてくれません。そこで、もう一度「牛乳下さい」。今度は前より大きな声を出したのに、ちょうど車が来て、声が消されてしまいました。店先に立っていると、めがねをかけたおじさんが来て、「たばこ!」と怒嗚りました。奥からおばさんが出てきて、おじさんはたばこを買うと行ってしまいます。“みいちゃん”は急いで声をかけますが、今度は太ったおばさんが来て、“みいちゃん”を押しのけるように買い物をしていきました。
店先にはまた“みいちゃん”だけになりました。「牛乳下さい!」自分でもビックリするような大きな声が出ました。おばさんもようやく“みいちゃん”に気づきました。そして、何度も何度も謝ってくれました。
帰り道、坂の下に、赤ちゃんを抱っこして手を振っているママの姿を見つけた“みいちゃん”は、嬉しくなって駆け出すのでした。
我が子をはじめておつかいに出すとき、親は誰しも心配します。車にひかれないか、迷子にならないか、ケガをしないか…。ちゃんとおつかいができるかどうかよりも、一人で外出させることに対する心配 の方が、ずっとずっと大きいものです。
でも、子どもの方だって、一人で行くのは不安なのです。一人で行くことにワクワクもするし、頼まれたことが嬉しくもあるけれど、やっぱり不安な気持ちもあるのです。この本の中で作者の筒井頼子さんは、そんな複雑な気持ちを見事に表現しており、子ども達は、自分自身を“みいちゃん”に投影し、夢中になります。
林 明子さんの絵が、またすばらしい。主人公“みいちゃん”の豊かな表情は、そのときどきの気持ちを生き生きと浮かびあがらせていて、まるで生きているかのよう。細部に至るまで丁寧に描かれた絵には、はやしあきこ絵画教室のお知らせが貼ってあったり、迷子のネコを探すポスターと、そのネコが別々のページに描かれていたりと、遊びがいっぱいつまっているので、それを探して楽しむのも一興です。
ところで、表紙に描かれている“みいちゃん”のとびきりの笑顔は、 ラストシーンで坂の下にママの姿を見つけて駆け出したときのもの。実は、本文中には斜め後ろから見た姿しか出て来ません。そんな絵本作りもステキです。