絵本紹介
絵本紹介
文 斎藤 隆介
絵 滝 平二郎
岩崎書店
10 歳の“あや”は、お祭りのご馳走の山菜を取りに行った山で道に迷い、村人から恐れられている“やまんば”と遭遇します。“やまんば”と会った場所には、“あや”が今まで見たこともない、美しい花が一面に咲いていました。“やまんば”は“あや”に、その花がきれいに咲く理由を話して聞かせます。それは、「つらいのを辛抱して、自分のことより人のことを思って、涙をいっぱいためて辛抱すると、その優しさとけなげさが、こうして花になって咲き出す」というものでした。
さらに、“やまんば”は話します。「命を捨てて優しいことをしたときに、山が生まれる。うそではない、本当のことだ…」と。
山から帰った“あや”は、村のみんなにこの話をしますが、誰も本気にはしませんでした。けれど“あや”は、優しいことをするたび、「あっ!いま花さき山で、おらの花が咲いてるな」と思うのでした。
他人を思いやる気持ちや思いやりの心は、人間にとってとても大切です。でも、我が子に教えたくても、教えるのはとても難しい。言葉で言ってもなかなか伝わらない、「これよ」と見せてやることもできない、なぜならそれは形のない心だからです。この本は、そんなとても美しく貴い心への賛歌です。わずか10歳の“あや”が、自分だって欲しいのに我慢して、妹に祭り着を買ってやって欲しいと母親に言う。双子の赤ん坊の兄が、自分もおっぱいを飲みたいのに、お兄ちゃんなんだからと自分に言い聞かせて我慢して、弟がお母さんのおっばいを飲んでいるのを目にいっぱい涙を溜めながらじっと見ている。けなげな小さな者の描写が、涙を誘います。心が洗われる思いです。
素直な心の子ども達は、こうした美しい物語に心打たれ、自分もそうあろうと思うはずです。そうありたいと願うはずです。わたしはその気持ちこそが大切なのだと思います。
作者は、民話の形式を借りた児童文学の創作に長年打ち込んでこられた斎藤隆介氏。版画家滝平二郎氏とのコンビで、数々の名作を世に送り出しています。
[参考:斎藤隆介&滝平二郎コンビの代表作】
『ベロ出しチョンマ』『モチモチの木』 『八郎』