絵本紹介
絵本紹介
文 小沢 昭巳
画 関 重信
ハート出版
小さな川のほとりで、いっせいに生まれた蛍の子ども達。柔らかな羽根を広げ、次々と飛び立っては、歓喜の声をあげています。その中に一匹だけ、飛べない蛍がいました。その子の羽根はみにくく縮れていて、どんなに力を入れても開きません。飛べない蛍は悔しくて、辺りをめちゃめちゃに歩きながら、体を石にぶつけました。それを見ていた仲間の蛍はやりきれない思いでその場を立ち去り、露草の裏にじっと隠れて、飛べない蛍のことを考えていました。
ある晩のこと、蛍狩りに来た姉弟が、飛べない蛍を捕まえようとしました。と、そのときです。別の蛍がその子の腕にとまり、わざと捕まったのです。自分の身代わりになってくれた蛍を思い、飛べない蛍は体中が熱くなります。胸がいっぱいになって、大粒の涙がこぼれてきます。
その頃、蛍を捕まえて連れ帰った姉弟は妹の部屋で、捕まえてきた蛍を放していました。体が弱くて寝たきりの妹に、蛍を見せてやりたかったのです。事情を知った身代わりの蛍は、力いっぱいその部屋の中を飛びまわり、女の子を喜ばせていました。
しばらくして、川辺りの蛍達のところに、あの蛍が帰ってくるという知らせが届きました。忙しく出迎えの準備をする蛍達。その中には、 飛べない蛍の姿もありました。羽根は相変わらず縮れたままでしたが、もう気にしてはいません。
いよいよあの蛍が帰ってくる日、迎えに行った蛍達は、大きな白鳥座の形に並んで帰ってきました。真中には、あの蛍が光っています。飛べない蛍は仲間を見上げながら、心の底から言いました。「ひとりぼっちじゃないって、なんてすてきなことだろう!」
羽根が縮れて飛べない蛍。多くの仲間の中で、唯一自分だけが飛べないと分かり、一時は自暴自棄になります。けれど、回りの温かい目と思いやりに励まされ、力強く立ち直ります。飛べない蛍は飛べない蛍なりに生きていこうと決意したのだと思います。最後の「ひとりぼっちじゃないって、なんてすてきなことだろう!」という飛べない蛍の言葉が、胸にジーンと響きます。
人間には、異質な存在を排除しようとする本能があります。けれど、それは理性で補えるもの。ちょっと違うからといっていじめたり、仲間外れにしたりするのは、未熟な心の表れです。この本を通し、子ども達に、弱い者をかばい、互いに助け合う優しい心を学んで欲しいと願っています。