絵本紹介絵本紹介

けんかのきもち(年長)

けんかのきもち(年長)

文 柴田 愛子
絵 伊藤 秀男
ポプラ社

あらすじ: ”たい”は仲良しの”こうた”とすごいけんかをした。悔しくて悔しくて…

たくさんの子ども達が遊ぶ『あそび島』で毎日遊んでいる“たい” の一番の友だちは“こうた”。ある日、“たい”は“こうた”とすごいけんかをします。蹴りを入れて、パンチをして、つかまれて、倒されて・・・。“たい”が「もう いやだ」と言ったら、“こうた”は、「おわりにする!」と言って、“たい”の肩をどつきました。しりもちをついて泣いた“たい”。悔しくて、悔しくて、泣きながら走って家に帰って、お母さんに抱きついて泣きました。泣いて、泣いて、泣いたけれど、泣きたい気持ちが無くなりません。
と、『あそび島』の先生が「おやつ 一緒に食べよう。さっき みんなで作った餃子だよ。」と誘いに来ました。返事なんかしてやんない、 行くもんか、絶対行かない、とすねていたら、お母さんだけ行っちゃった。「お母さん、帰ってきて!」玄関を開けて叫んだら、『あそび島』のみんなの顔が見えました。「ごめんな!」“こうた”の大きな声も聞こえます。なんでだよ、なんであやまるんだよ!またまた涙が出てきました。「うわあ~、うわあ~、うわあ~」大きな声でまた泣きます。
お母さんが持って帰った“こうた”と作った餃子をばくばくと食べた“たい”。涙も止まって、気持ちもすっきり。お母さんに餃子のお皿を洗ってもらって、『あそび島』に返しに行きました。ちょっとドキドキしながら…。

評:おもいっきり気持ちをぶつけあえば、もっと仲良くなれる。コミュニケーションのあり方を考えさせる絵本

最近、子ども達の取っ組み合いのけんかを見ることが珍しくなりました。お行儀が良くなったから?おとなしくなったから?それとも… 本当のけんかは、心も体も熱くならなければできません。本当のけんかは、誰とでもできるわけではありません。本当のけんかは、後味の良い気持ちの良い終わり方ができるものです。
思えば私も幼い頃、近所の友だちと取っ組み合いのけんかをしたなぁ。遠い日を思い出しながら、この絵本を楽しみました。
作者の柴田愛子さんは、保育歴30年のベテラン保育士。現在は、「りんごの木」という団体の代表として、子どもに関わるトータルな仕事を目指して活動されている方です。保育の現場で日々子ども達と接している作者ならではの、生き生きとした“たい”の心の描写は絶品。 ダイナミックで迫力万点の伊藤秀男氏の絵がまたいい。装丁にも採用されている“たい”が寝転んで泣くシーンなど、「そうなんだ、そうなんだよ」と、思わずうなずいてしまったほどです。
なお、作中に登場する『あそび島』とは、本当の島ではなく、都心に実在する無認可の幼稚園が母体となっているサークルのようなものの名称。ここは、3歳から高校生くらいの子ども達が、入れ替わり立ち替わりやって来て遊ぶ場所です。ちなみに、この絵本のモデルになったけんかも、その『あそび島』で実際にあった、立派なけんかだそうです。
けんかのルールなんて、誰も教えてくれません。お母様方は「けんかをしてはいけません」と教えがちです。でも、自分の芯を思いきりぶつけ合う本当のけんかは、実は親密で健全な人間関係を築いていく過程で重要な要素となってくれるのかもしれない。この絵本は、そんなことも思い出させてくれました。