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手ぶくろを買いに(年長)

手ぶくろを買いに(年長)

文 新美 南吉       
絵 黒井 健 
偕成社

あらすじ: 狐の親子の住んでいる森に冬がやってきました・・・

寒い冬、雪の上で遊んでいた子ぎつねは、家に帰るなり、「お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れて牡丹色になった 手を差し出しました。母ぎつねはかわいそうになり、夜になったら町へ行き、毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
夜になりました。親子は町を目指して歩き始めますが、町の灯が見えた途端、母ぎつねの足がすくんでしまいました。昔、町でひどい目にあったことを思い出したのです。どうしても足が進まないので、仕方なく坊や一人を町まで行かせることにしました。
母ぎつねはしばらく坊やの片手を握り、人間の手に変えました。そうして、「町へ行ったら、表にシャッポの看板のかかっている家を探し、トントンって叩いてこんばんわって言うんだよ。そうすると、人間が少しだけ戸を開けるからね、必ずこっちの手を差し入れて、この手にちょうどいい手袋をちょうだいって言うのよ。決してこっちのお手々を出しちゃだめよ。相手がきつねだとわかったら、手袋を売ってくれないどころか、捕まえて、檻の中へと入れられちゃうからね」と言い聞かせると、持ってきた二枚の白銅貨を人間の手の方に握らせました。
町についた子ぎつねは、母ぎつねに言われた通り、シャッポの看板のかかっているお店を探しました。戸をトントンと叩き、「こんばんは」と挨拶しました。母ぎつねが言った通り、戸が少しだけ開きました。ところが、慌てた子ぎつねは、間違えてきつねの手を差し入れてしまいます。帽子屋さんは『おやっ』と思いますが、お金が本物だったので、子ども用の手袋を子ぎつねの手に持たせてやりました。
帰り道、ある窓の下を通りかかったとき、優しい美しいおっとりとした声が聞こえてきました。子ぎつねは、きっと人間のお母さんの声に違いないと思いました。すると、急に母さんが恋しくなり、跳んで帰って行きました。

評:無邪気な子ぎつねのかわいらしさ、子どもを想う母ぎつねの情愛が、美しい日本語で語られます。

冬の森に住む、きつねの親子の物語。無邪気な子ぎつねのかわいらしさ、子どもを想う母ぎつねの情愛が、美しい日本語で語られます。 黒井健さんの描く繊細なタッチの絵が、幻想的な冬の風景を見事に再 現しています。情感豊かな風景です。
作者の新美南吉さんは、わずか30年の短い生涯ながら、数々の名作を世に残しています。彼の代表作とも言えるこの作品では、彼が生涯を掛けて追求したと言われるテーマ「生存所属を異にするものの魂の流通共嗚」が、色濃く反映されていると言えるでしょう。

【参考:新美南吉の本】
『ごんぎつね』 『花の木村と盗人たち』
『おじいさんのランプ』など