絵本紹介絵本紹介

ちびっこちびおに(年少)

ちびっこちびおに(年少)

文 あまんきみこ
絵 わかやまけん
偕成社

あらすじ: 森が雪で真っ白になったある日、“ちび鬼”が、人間の街へ行ってみたいと言い出し・・・

“ひがらやま”の古い小屋に、鬼の親子が住んでいました。
森が雪で真っ白になったある日、“ちび鬼”が、人間の街へ行ってみたいと言い出しました。初めのうちは「つかまってしまうからだめ」 と言っていた母親でしたが、“ちび鬼”があんまりせがむものだから、 とうとう折れて、“ちび鬼”に緑色の上着を着せ、赤い長靴を履かせ、緑色の手袋をはめ、暖かいふかふかの帽子をかぶせ、「どんなことがあっても、これを脱いではだめよ」と言い聞かせて、一度きりの約束で送り出しました。
“ちび鬼”は勇んで小屋を飛び出し、ふもとの幼稚園まで走りました。幼稚園では、子ども達がお庭で遊んでいるところでした。楽しそうな笑い声や呼び声が聞こえ、とてもにぎやかです。最初は隠れて見ていた“ちび鬼”でしたが、だんだんと子ども達に近づいて行きました。そして、子ども達が部屋の中へ入ると、“ちび鬼”も一緒に部屋の中へと入って行きました。
先生やみんなが“ちび鬼”に気づき、不思議そうにしていたときで す。窓の外から泣き声が聞こえてきました。園児のひとり、“ごんちゃん”が、乗ってはいけない丸池の氷にこっそり乗って、全身ずぶぬれになって立っています。先生より素早く駆け寄った“ちび鬼”は、夢中で“ごんちゃん”に自分の履いていた長靴を履かせ、着ていた服を着せ、帽子をかぶせてやりました。
裸ん坊になった“ちび鬼”は、誰が見ても鬼の子です。子ども達も先生も驚きましたが、「ぼく、遊びたかったの」という“ちび鬼”の声を聞くと笑顔になり、みんなで一緒に楽しく遊んだのでした。

評:一見異質な存在であっても相手を理解し、尊重し合って、共存することができるという大切なことを教えてくれる絵本

頭にツノが生えている上に、真冬の雪の中でも素っ裸で平気な子鬼は、見るからに異質な存在です。ところが、この絵本に登場する子ども達も先生も、最初こそ驚くものの、「遊びたくて来た」と言う鬼の子を温かく迎えて、一緒に遊びます。作者のあまんきみこさんは、この絵本を通して、一見異質な存在であっても、偏見や先入観を捨ててぶつかれば、相手を理解し、尊重し合って、共存することができるというとても大切なことを教えているように思います。
絵を担当されているのは、ダイナミックな画風で人気のわかやまけんさん。この絵本では、暖色系の鮮やかな色使いで、子ども達と鬼の子の心の交流を描き出しています。途中、子ども達と鬼の子が遊ぶ様子が描かれた絵だけのページが3ページ出てくるのですが、一人一人の表情や動きが丁寧に描き込まれていて、今にもにぎやかな声が聞こえてきそうな仕上がりとなっています。前半では、白と薄いブルーで描かれる雪が、子ども達とわかり合えた頃からピンク色に変わることで、間接的に鬼の子の心の動きが表現されていることにも注目したいところです。
全体を通してとてもかわいらしく、子どもらしい作品。節分の頃に読んであげるというのも良いと思います。