絵本紹介絵本紹介

おにたのぼうし(年長)

おにたのぼうし(年長)

文 あまん きみこ
絵 いわさき ちひろ
ポプラ社

あらすじ: “おにた”は、“まことくん”の家の物置の天井に、こっそり住みついた黒鬼の子ども。節分の夜に・・・

“おにた”は、“まことくん”の家の物置の天井に、こっそり住みついた黒鬼の子どもです。節分の夜、“おにた”は古い麦わら帽子でツノを隠すと、こっそりと物置小屋を出ていきました。“まことくん”が元気に豆まきをしている間、この家は危険なのです。
雪が舞う中、“おにた”は行き先を探しますが、どの家も鬼の目を刺すヒイラギの葉を飾っているため入ることができません。と、豆の匂いもしないし、ヒイラギの葉も飾ってない、 トタン屋根の家を見つけました。中から女の子が出てきて、雪をすくって洗面器に入れている間に、“おにた”はそっと家の中に滑り込んで、隠れました。
部屋の真中に薄い布団が敷いてあり、女の子のお母さんが寝ています。病気のようです。お母さんが熱で潤んだ目をうっすらと開けて、「 腹がすいたでしょう?」と女の子に聞きました。すると女の子は、「さっき、知らない男の子が、あったかい赤ご飯と鶯豆を持ってきてくれたの。節分のご馳走が余ったんだって」と言いました。でも、“おにた” には、それが嘘だとわかりました。それで、寒い外へと飛び出すと、 どこからか赤ご飯と鶯豆を調達し、女の子が言ったとおりに真似て持ってきてあげます。女の子は喜び、食べようと箸を持ちますが、そのまま考え込んでしまいます。女の子は、「鬼が来ると、お母さんの病気が悪くなるから、豆まきがしたい」と言うのです。“おにた”は思わず立ちあがり、悲しそうに身震いしながら、「鬼だっていろいろあるのに」と言うと、氷が溶けるように、急に姿を消しました。“おにた”がいた場所には、麦わら帽子だけが残されていました。女の子が帽子を持ち上げると、中にはまだ暖かい黒豆が入っていました。
「さっきの子はきっと神様だわ」女の子はそう考えながら、お母さんが目を覚まさないよう、静かに静かに豆まきをしました。

評:「人間っておかしいな。鬼は悪いって決めているんだから。鬼にもいろいろあるのにな」という“おにた”の言葉が胸に響きます。

優しくて気のいい黒鬼の子“おにた”は、家人のためにいろいろと尽くしますが、家人はそれに気づきません。鬼は怖い者、悪い存在、不幸をもたらすと決めつけて、節分には魔よけのひいらぎを玄関に飾り、夜には豆まきをして、鬼を追い払おうとします。そんな人間の風習に疑問を持ちながらもどうすることもできず、裸で寒い雪の中へと逃げていく“おにた”の姿に哀愁が標います。
さらに、ようやく見つけた居場所にいた貧しい親子のために食べ物を調達したにもかかわらず、ここでも「鬼がくると、お母さんの病気が悪くなる」と言われ、悲しみは頂点に達します。身震いするほど悲しいのに、女の子に黒豆を残していく“おにた”の姿には、感動すら覚えます。「人間っておかしいな。鬼は悪いって決めているんだから。鬼にもいろいろあるのにな」という“おにた”の言葉が胸に響きます。しんしんと染み入るような哀しさが漂います。
いわさきちひろさんの叙情的な絵が、哀しく美しい物語を幻想的にしています。