絵本紹介
絵本紹介
文 はまだ ひろすけ
絵 いけだ たつお
偕成社
ある山に、若い赤鬼が一人で住んでいました。この赤鬼は、気持ちの優しい親切者で、人間達とも仲良く暮らしていきたいと思っていました。ある日赤鬼は、立て札を作って家の前に立てました。その立て札には、「心の優しい鬼の家です。どなたでもおいで下さい。美味しいお菓子もございます。お茶も沸かしてございます」と、丁寧な文字で書かれていました。
次の日、通りがかった村のきこりは立て札を読み、不思議な気持ちになりました。一度は立ち去ったものの、仲間のきこりを連れて立て札の前に戻ってきました。二人は鬼の真意を計りかね、相談を始めました。赤鬼は、家の中で聞き耳を立て、二人の話をそっと聞いています。戸口から二人が入ってくるのを、今か今かと待っていたのです。 ところが、期待に反して二人はなかなか入って来ないどころか、「うまくだまして、獲って食うつもりらしいぞ」などと話し始めたものだから、すっかり腹を立ててしまいます。部屋から顔を出し、「誰がだまして食うものか」と大声で叫んだから、さあ大変!二人のきこりは、どたばたと逃げていってしまいました。悔しくてたまらない赤鬼は、 目にいっばい涙を溜めて、せっかく作った立て札を壊してしまいました。
そこにひょっこり現れたのは、親友の青鬼でした。事情を聞いた青鬼は、「これから僕がふもとの村へ行き、どこかでわざと暴れることにする。そこへ君が来て、僕の頭をぽかぽか殴るんだ。そうすれば、人間達も君のことを信用し、遊びに来てくれるようになるだろう」と言うと、とっととふもとの村へ行きました。村外れの小さい家に入り込むと、暴れながら赤鬼が来るのを待ちました。間もなく赤鬼がやってきて、打ち合わせ通りに青鬼をやっつけました。この様子を隠れて見ていた人間達は、青鬼が逃げ去るのを確認すると、口々に赤鬼を誉めながら、大人も子どもも連れ立って、赤鬼の家に遊びに行きました。それからというもの、赤鬼の家には、毎日村人達が入れ替わり立ち替わりやってきました。赤鬼は嬉しくて、毎日ニコニコして暮らしていました。ある晩、ふと青鬼のことが心配になり、翌日様子を見に行ってみると、青鬼の家は留守でした。戸口に赤鬼への手紙が貼ってあります。手紙を読んだ赤鬼は、今更ながら青鬼の友情の深さを知り、 涙を流したのでした。
青鬼の友情の深さに感銘を受けると共に、今の楽しい生活が青鬼の犠牲の上に成り立っていることに気づいた赤鬼の、後悔とも、感謝ともつかない熱い涙が胸を打ちます。とても有名な童話です。お母様やお父様にとっては、きっと懐かしいお話でしょう。同じ偕成社から出版されている同名の童話(絵:梶山俊夫)を、子ども用に優しく書き直したものが本書です。機会があったら、そちらもご覧になってみてください。