絵本紹介
絵本紹介
文 山下 明生
絵 エム・ナマエ
自転車の補助輪が取れたことが、嬉しくてたまらない“わたくん”。
「僕、自転車でお買い物に行ってあげる」と、お母さんに言いました。ヘルメットをかぶって、自転車にまたがった“わたくん”は、勢いよく走り出します。団地の坂を下り、角を曲がって、ふみきりを渡り、国道へ出ると、赤信号で止まりました。信号が青に変わると、“わたくん”は再び走り出しました。新幹線にも負けない速さで、車と競走です。飛ばしに飛ばして海まで来ると、そのまま海の上を突っ走ります。海の果てまで行きつくと、今度は空へと登り始めました。ゴーゴーゴー…ロケット音を立てながら、お日様めがけて突進です。お日様のところまで来た“わたくん”は、焼き立てのお日様パンを買う と、元気に家へと帰っていきました。
お家でほおばった焼き立てのお日様パンは、とってもとっても美味しかったそうです。
お母さんから頼まれたパンを買うため、自転車に乗って出発した“わたくん”。途中までは確かに現実のお話なのですが、らくがきのへのへのもへじいさんや犬に声をかけられる辺りから雲行きが怪しくなり、海の上を走る場面に至っては、完全に空想の世界へと入り込んでしまいます。それがとても自然に、スムーズに流れていくので、子どもにはわかりません。すべてが現実のような気になるはずです。そして、それが、とても楽しいのです。
新幹線より早いスピードで、海の上を走り、空を登ることができる、“わたくん”の自転車。ワクワクするようなドラマチックな展開が、子ども心を魅了します。
自転車に乗った“わたくん”は、いろいろな人に「どこへ行くの?」と声を掛けられます。題名の「ちょっとそこまでパン買いに」は、その問いへの“わたくん”の答えです。
また、細部まで丁寧に描き込まれた街と、颯爽と自転車にまたがる“わたくん”のコントラストも抜群で、こちらも心が踊る楽しさです。読み終わった後、「僕も自転車に乗る」というお子さんが増えそうですね。