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入試日程は年によって変わるものとして準備しておく

神奈川県の学校は、例年10月3週目の火曜日から入試が解禁になるため、多くの学校が同じ日に試験を実施する。よって、東京の学校よりも併願が難しい。一日に二校受験する、いわゆるダブルヘッダー受験を検討するご家庭が多いのもこのためだ。

例えば、青山学院横浜英和小学校は、月齢によって考査時間を変えており、例年、10月~3月生まれは9:20~12:00、4月~9月生まれは12:20~15:00だったので、高月齢のお子さんは、午前中に他校を受験してから横浜英和を受けることができた。
しかし、今年は例年の逆で、高月齢が午前、低月齢が午後に実施された。事前に分かっていれば対処できたが出願後の発表だったため、併願を予定していた高月齢のお子さんのご家庭は、どちらの学校を受験するか選択を迫られることになった。一方、低月齢だが、ダメもとで願書を出していたご家庭は、結果的に両校の受験が可能になった。
神奈川だけでなく都内も考査日時はその年によって変わることもあるので、後悔しないよう、あらゆる可能性を考えて願書を出願して欲しいと切に思う。

説明会の重要性

併願校が増えると、説明会の日程が重複することも多く、全ての学校説明会に参加するのは大変だ。共働きのご家庭ともなればなおさらだろう。対策として、興味のある学校の説明会には、年中のうちから参加することや保護者が手分けをして参加することをお勧めしたい。ただし、なかには入試のヒントになることを説明会で話す学校もあるので、そうした学校には年長時の参加が必須だ。

たとえば今年の聖心女子学院初等科は、9月の説明会で、「面接では志望動機やご家庭で大切になさっている教育方針をお聞かせいただきたいと思っております」と面接について言及している。
そして試験当日、受付で、「控室でお目通しください」と『18歳のプロファイル』(聖心女子学院を卒業する18歳までに身に付けてほしい基本的な力、姿勢)がまとめられた小冊子を渡され、面接で、「18歳のプロファイルの中で最も共感する箇所とその理由、ご家庭で具体的にどのようなことをなさっているか、お子様にどのように教えているかお聞かせください」との質問がなされた。
事前に質問内容を公表したのは、正解がない質問であり、緊張しているなかで絞り出した咄嗟の答えではなく、事前に準備をしてしっかりとまとめた家庭の考えを聞きたかったからなのか、はたまた、説明会に参加するという当たり前の熱意を見たかったのだろうか。こちらも正解はわからないが、「18歳のプロファイル」は学院のホームページにも公開されている。熱意のある人はすでに読んでおり、いずれにしても面接で差がついた!!

ネガティブな質問が増加傾向に

小学校受験の面接と言えば、
「どうして本校を志望されたのですか(志望動機)」
「どのようなお子さんですか」
「ご家庭の教育方針をお聞かせください」
といった質問が主流だった。もちろん現在もそのような質問はあるが、多くの家庭が面接対策をしっかりするようになった昨今では、そのような質問だけでは家庭像や人柄が見えづらくなったのだろう。学校側も、変化球的な質問をするようになっている。

例)
「(母親に対して)ご主人の良いところと悪い所についてお話しください」(森村学園初等部)
「(父親に対して)今までの人生で挫折したことを簡潔にお聞かせください」(田園調布雙葉小学校)
こうした質問は事前の準備が難しく、なおかつ、どのような答えが求められているかを瞬時に判断することも難しいため、本音でしか答えようがない。
入学後、保護者に手を焼いているケースが増えているのだろう、ネガティブな質問をすることによって学校側が望まない保護者を見極めようとする動きも広まっている。これまであまりネガティブな質問をしてこなかった学習院初等科までもが、この動きを見せたことには驚いた。
今年の学習院初等科では、何種類ものネガティブな質問が用意されていたが、その一つに、「宿題をやりたがらなかったらどうしますか」という質問があった。皆さんは、どのように回答するだろうか。
「やりたくなくても、宿題をやらないわけにはいかないので、きちんと本人にやらせます。」予想していなかった質問に深く考えることもできず、咄嗟に、こういった回答をしてしまうかもしれない。しかし、学校側は、それでは解決しないことを想定して質問していると考えられるため、これは無回答に近い答えと言わざるを得ない。
「やりたくない子に無理にやらせるのは時間の無駄なので、親が一緒にやりながら、宿題をする習慣を身に付けさせたいと思います」。これでは、親と一緒に宿題をする習慣が身に付くだけのこと。こういった伴走型の親は、6年間、否、大人になるまで子どもの面倒をみることになる。
一方、「やりたくなければやらなくてもいいわよ。そのかわり困るのはあなたよ」といった突き放し型は、言いかえれば学校任せの親である。
これらの回答の一番の問題点は、子どもに「なぜやりたくないのか」を聞かないことにある。そのため、処方箋が決まらないのだ。
共働きの保護者は忙しい。夕食後に宿題が終わっていない事実を知っても、時間的な余裕がないため、子どもの事情をじっくりと聞くことなく親が手伝ってでもとにかく目の前の宿題をさせて、「明日は自分でするのよ」と言い聞かせるしかないというのも理解できる。しかし、厳しいことをいうようだが、今日できない子が明日はする保証など、どこにもないのだ。
子どもが宿題を「やりたくない」という理由はさまざまで、ざっと考えただけでも、
①難しくて一人でできない。
②今から始めても寝る時間までに終わらない。
③他にやりたいことがあるから宿題をしたくない。
④そもそもなぜ宿題をしなきゃいけないの?
などが思いつく。
この手の質問の答えには、間違いも、正解もない。しかし最低でも、「なぜ宿題をやりたくないのか理由を聞き、時間が足りない、眠いと言うことならば、とりあえず半分だけでもやり、それによって翌朝何時に起きればできるのかがわかるのでいつもより早く起きてやるなど、子どもに理由を聞き、その時々の最善方法を探りたいと思います」くらいのことは答えて欲しい。加えて、「そのようなことにならないよう、『やりたいことを先にするのが幼稚園・保育園生』『やらなければならないことを先にするのが小学生』だと、入学前にしっかり教えていきたいと思います」くらいのことは言いたいところだ。

ペーパーのキーワードは『地頭』

今年も多くの小学校で地頭の良さをみるための推理思考の問題が出題された。ここでいう『地頭』とは、初めての問題や柔軟な思考力が必要な問題に対応できる力を指しています。ここでは洗足学園小学校・横浜雙葉小学校・聖心女子学院初等科の三校を取り上げます。

・系列 (洗足学園)
【問】左の順番に並んでいない印を右から見つけて、その印に×をつけましょう。

【解説】このタイプの問題は、空欄の中にどんな形を入れればお約束が続いていくのかを問うことが一般的です。この問題ならば、左の〇に人差し指(左)を置き、次の〇に人差し指(右)を置き、ずらしながら空欄に何が入るかを考えればよいのですが、間違っている所を探す問題になるだけで子どもにとっては大きな違いに感じるはずです。


・置き換え(横浜雙葉)
【問】動物たちがボタンを押すと電気がつきます。〇のボタンを押すと、黄色、赤、赤、黄色の電気がつきます。同じように×と◎のボタンを押したときも絵のように電気がつきます。それぞれの動物たちが押したボタンを考えて、四角の中に印を書きましょう。

【解説】まさに地頭が求められる問題。最初のブタは赤黄赤黄から始まっているので×又は◎が入りますが、◎を入れると次は黄赤黄赤になっているので〇は入らないので◎ではなく×になる。その後も同じように考えながら解いていく良問でした。


・オセロ(聖心女子学院)
【問】●を一つ置くと○が二つ取れるところをモニターで見る。つまり●と●に挟まれている〇は取ることができます。
①太陽の所を見てください。橙色の場所に●を置くと〇は何個取れますか。
②月の所を見てください。●をどこに置くと○が一番沢山とれますか。●を書きましょう。

【解説】②は点線の〇に置くと3個、4個、5個取れるので時間が許す限り、色々置きながら推理思考することが求められる。

一昔前は、ペーパーの領域と言えば数・図形・言語・一般常識・話の記憶などに分けられていたが今は推理思考という分野が多くの学校で出題されるようになった。これからも当研究所は推理思考の分野に最大限、力を入れていく。

暁星小学校

●顕著な変化が見られた今年度の入試
理事長に神父様が就任された影響もあるのだろう、今年度の暁星小学校では、暁星学園の原点であるマリア会の方針に則り、心の教育、心を豊かにする教育を改めて重要視していると思われる試験問題が多く出題された。これまで暁星は、ペーパー校と呼ばれ、問題を解くスピードを重視し、とにかくペーパーさえできればいいという世間の評価があった。もちろんある程度の能力は求められていることに変わりはないが、今年の試験では「しっかり考える事ができる子」、図形についても「感覚的にセンスがあり、丁寧に考えて答えを導き出す子」が求められているように感じられた。また、話の記憶や常識問題で、「人の気持ちを問う問題」が多く出題されたことも特徴的だった。一方、運動については「できる子」が求められた。

校長先生は以前からよく「動いている時ほど、その子の素が出る」と話しておられ、実際、運動センスがあり、なおかつ一生懸命に取り組む子が、1次試験に合格している。
2次試験では、集団遊びをするなかでの振る舞いだけでなく、移動中の態度、先生を待つ姿勢、聞く姿勢、先生への話し方なども含めての試験だと感じた。個々の子どもの様子がしっかりと見られていて、「自我が出すぎる子」ではなく「自分の意見を持ちながら、他者と共存できる子」を求めているようだ。
つまり、暁星だからといって、「我先に!」という勢いがある子だけが好まれるのではない。実際、「集団のなかで周りの状況を察して急ぐことができる子」や、「ちょっとした積み重ねが丁寧な子」が合格をいただいている。

●アンケートや保護者の面接で何を求めていたのか
学校が求める「当たり前」が、今の親にとって「当たり前」ではなくなっている。社会全体が、自己肯定感や自己アピール、自己啓発など、自己を大切にする傾向が強い現在でも、暁星学園が大切にしているのは、自分も他人も同じように大切にする人であり、そのための強さである。
両親面接では、学校の教育方針をしっかり理解しているか、両親が同じ方向を見ているか、会話がしっかりできているか、また、相手をしっかりと尊重することができるか、お互いに感謝を述べ合うなど日頃から一番身近な相手に対してどのように接しているかなど、自分だけでなく相手に対してどう考えているのかという視点が重要な質問が多くなされた。
長らく文武両道・心技体を教育方針としてきたなか、神父様が理事長となられ、学園全体として、人としての心の教育を最も大切にするマリア会の教えに原点回帰した方針へと変わりつつある。小学校の親に対する教えのなかでも、ことあるごとに、「小学校教育で最も大切にしたいことは心の教育である。人としての心の教育を大事にしていきたい」と話しておられる。「私利私欲でなく、自分の心を強くすることを大切にして欲しい」と語られており、本当の心の強さとは、今年初めて受験生に配布されたマリア会の冊子にも記載されている5つの教育理念、方針が基盤となっている。自身に力を付け(神からいただいた力)、他者への奉仕や関心に心を配る。人間は部品で成り立つロボットではない。AIに支配されない、人と人を大切にした教育がそこにあるからこその試験だった。

早稲田実業学校初等部

早稲田実業の1次試験は約60分。その中で、「ペーパー」「絵画」「生活習慣と巧緻性」「運動」「行動観察」の5項目を、教室を移動しながら行っていく。ひとつの項目にかける時間は10分以内。もともと短かったところに、近年は問題数が増加して、一項目に取り組む時間がさらに短くなってきている印象だ。

●ペーパー
ペーパーでは、しっかりと論理的に思考を組み立てて答えを導き出す問題に加え、ある程度の常識、知識。そして直感をもとに、瞬時に答えを選ぶタイプの問題も見受けられた。
【問題例】テレビ画面の先生が折り紙を折って見せる。(三角に半分折を3回繰り返す/長方形に半分折りを3回繰り返す)先生が折った折り紙を広げると形はどのように見えますか。正しいものを選んで〇をつけましょう。

●生活習慣
「日常生活の当たり前のことを迅速に処理できるかどうか」はもちろんのこと、日頃の保護者の子どもへの自立のさせ方が表れた課題でもあった。
【問題例】(男子9月~1月生まれ)
①ハンガーにかかっている長袖Yシャツを着てボタンを全てかける。→上履きを脱ぎカーペットに上がり考査を行う机で待つ。
②先生から「授業が終わった後の片づけをしましょう。なわ跳び(取っ手付き)は結んで巾着に入れ、ゴミ(クシャクシャに丸めた紙や新聞紙の切れ端数枚)はゴミ箱に捨てましょう。あとの物は整理して道具箱の中に入れておきましょう。」と指示がある。あとの物とは、色鉛筆、ポンキー、鉛筆、消しゴム等の文房具のことで、それぞれを適した入れ物に収め、引き出しのような道具箱に整理整頓するという作業だった。
③最後に、着ているYシャツを脱いでハンガーにかけ、上履きを履いて決められたところまで移動して待つ。

この課題に対し、実際に子ども達が活動する時間は5分にも満たない。また、時間帯によって、②の部分が「お泊りの支度=取っ手付きのなわ跳びを結んでジッパー付きのビニール袋に入れ、多種類の衣類をすべてたたみバンダナで包んで結ぶ」や、「雨の日の登校=雨で濡れたレインコートをハンドタオルで拭きたたむ。レインコートと使用後のタオルを別々のジップロックに収め、レジャーシートや水筒と一緒にカバンにしまう。長傘をクルクルとまとめて留め、傘立てに収める」に変わるなど、いくつかのパターンがあった。
いずれにしろ、短時間で身の回りのことができること、とりわけ、入学後すぐに必要になるであろう生活能力を迅速に発揮できるかがポイントになる。試験後、「Yシャツを途中までしか着られなかった」「複数の仕事のうち半分以上は残してしまった」と話していた子は、残念ながら一次通過は難しかったようだ。

●絵画
【問題例】
①あらかじめ画用紙に、「窓」「扉」「椅子1脚」「テーブル」「大きな木1本」などが印刷されている。
②「涙型」「楕円」「U」「V」「渦巻」「長四角」の形のなかから、指定された3つを絵のなかで使う。
以上2つの条件を満たす絵を、ポンキーを使用して5分程度で描き上げる。

例えば「窓」の場合、まず描く場面を、家の中にするか窓の外の庭にするか、そこで自分はどんな楽しいことをしているのか、そのなかのどの場面を描くのかを決める。そして、課題の形や線を描きたいものの一部にあてはめながら、絵を完成させていく。発問とほぼ同時に何を描くのかをイメージし、「始め」の合図ですぐに取り掛からなければ、時間内で完成させるのは困難だろう。普段から、家の中や外での楽しい活動の経験があること、それをすぐに思い出せること、あれこれ考えず書き始める潔さも必要だ。
合格したある男子は、「窓のそばの水槽で飼っているカタツムリの世話をする自分と、そこに声をかけているお母さん」を、カタツムリに「楕円」、自分の口に「U」、カタツムリに霧吹きでかけている水滴にたくさんの「涙型」を使って描いた。

●来年度に向けて
今年の結果をみても、出身者、兄弟関係等が特に有利に働いているようにはみえない。つまり、チャンスは皆に平等にあるということだ。では、どのような対策が必要か。ペーパーが解ける、生活習慣や巧緻性もただできる、というだけでは力不足。いかなる状況でも素早く行える、という段階まで力を伸ばし確立しておくことが、合格を引き寄せる決め手となる。早稲田実業は、試験項目は多岐にわたるものの取り組ませている内容は長年変わっていないので対策しやすく、繰り返しの学習で力をつけることができる。
狙うならば早々に着手し、着々と準備を進めましょう。

慶應義塾横浜初等部

慶應義塾横浜初等部の一次のペーパーテストは、話の記憶・分類計数・回転した点図形・推理思考の4枚。それぞれのペーパーが3問ずつ、つまり全部で12問なので1問の正誤が合否の分かれ道になるのが横浜初等部の一次テストです。

話の記憶以外は見本として答えの書いた練習問題があったので、問題の意味はわかりやすかったようです。
その中で推理思考の問題は地頭と注意力が必要でした。お手本では、「このように積み木が積んであります。金槌で上から2番目の積み木を叩くと絵のようになります。」と説明します。
この時点で子供たちは「上から」の発問には頭の積み木は含まれていないこと、「叩く」とは叩いて落とすことを理解した。

【赤枠の問題】下から2番目を叩いたらどうなりますか。右から正しいものを選んで、青クーピーで、〇で囲みなさい。
【青枠の問題】上から2番目を叩いてから、下から3番目を叩くとどうなりますか。右から正しいものを選んで茶色クレヨンで〇をつけましょう。
【黄色枠の問題】下から2番目を叩いてから下から2番目を叩いて、次に上から2番目を叩くとどうなりますか、右から正しいものを選んで青クーピーで〇をつけましょう。

問題の何番目は、ただ積み木を落としただけで変わらない場合と、落ちたことで順番が変わる場合があることを推理して、次に指示される積み木を考える地頭が必要です。そして、「ことばの教育」を一つの柱として打ち出している慶應横浜らしく、上(下)から何番目を聞き取って考え、更に、1問ごとに青クーピーで「あっている積み木に〇をつける」、茶色いクレヨンで「〇で囲む」など注意して聞き取る力も見られています。
二次テストでは、体操と行動観察、絵画製作テストとそれに続く行動観察が行われました。絵画製作では、男女月齢によって「お祭り」「紙の世界」などテーマに沿った課題が出題されました。
例えば、男子の二日目の午前は「掃除」がテーマでした。色画用紙に「自分が発明した掃除の機械」をクレヨンで描くことが課題です。その後、先生に帯をつけて頂き、自分たちのエプロンを巻いた子供たちは、友達に自分の発明品を紹介しあった後、トングを使って街の掃除とゴミの分別を行いました。

「発明した」「掃除」と聞くとなかなか描く機会も少ないかもしれませんが、実はジャックの慶應横浜の授業では、「各自が書いた絵をヒントに、普段何のお手伝いをしているかを当てるゲームや社会や生活に役立つロボットを考える課題を対策していました。授業でやったことが今回のテーマにどれだけ結びついたかは分かりませんが授業はあくまでも点です。点と点の間に家庭学習という点を打つことによって線になります。それが合格するための力になります。
4人で虫探しゲームの行動観察をしたグループもありました。グループに1枚「ハナカマキリ・ノコギリクワガタ・ショウリョウバッタ」など、3匹の虫の写真が貼りついたカードが配られます。ジャングルに見立てた教室の中に様々な虫の写真が裏に貼ってある箱が沢山あり、自分たちのカードと同じ虫をグループで協力して探し、箱の裏の虫の枠の色を「虫博士」と称する先生に伝えるゲームがありました。

このように慶應義塾横浜初等部の二次試験は8パターンの全く違う課題が出題され、同じテーマでも月齢によって発問は違います。絵画も製作もかなり広範囲から出題されるので、どこからどう対策してよいのか途方に暮れそうですが、実は今回の8分野とも過去12年間に出題された課題をテーマの中でリメイクしたものです。過去のテーマとその意図を研究している当研究所の慶應義塾横浜初等部クラスでは、年中・年長の学校別授業と講習会で、今回のすべてのテーマをアレンジして取り入れたので、子どもたちも慌てることなく対処できたと感じています。

慶應義塾幼稚舎

●求められたのは「伸びやかさ」
慶應義塾幼稚舎は、例年、お子様が絵画や製作をしている最中にテスターがきて、作品をきっかけとした質問を投げかけ、お子様の受け答えを見るという質疑応答が定番だった。しかし今年は、月齢別に分けられた7日間のうち複数の日程で製作中の質疑応答がなく、お友達と作品を紹介しあうという形式で考査が行われた。

【試験の概要】
子どもたちは、教室の中の割り当てられた座席に座り、前方に先生がいて、モニターがある。
絵本「バナナじけん」(BL出版)がモニターに映し出され、バナナを運ぶ運転手、運転手が落としたバナナを食べるサル、サルが捨てたバナナの皮で転ぶウサギ、その皮を拾うワニというお話の読み聞かせが始まる。
読み聞かせ終了後、「この後どうなったと思うかな?『前に立ててある紙の中の生き物』から1つ選んで、その生き物のお話の続きを画用紙にクレヨンで描いてください。」と指示がある。『前に立ててある紙の中の生き物』とは、運転手、サル、ウサギ、ワニであり、すべて絵本に登場した生き物である。

絵を描き終わると、先生から紹介方法の指示がある。「これからお友達に絵を紹介します。このようにしますよ」という言葉に続き、2人の先生が次のような見本を見せてくれる。
見本:2人組になってじゃんけんをし、勝った先生が先に自分の絵を紹介し、聞いていた先生は絵について質問をする。次に、負けた先生が絵を紹介し、聞いていた先生が絵について質問をする。最後にハイタッチして別れ、別の先生と同じことを繰り返す。

この試験では、「話の続きを創作すること」に加え、「自分からお友達に声をかける積極性」や、「会話の様子」が見られた。自分のことばかりでなく、相手の話をしっかりと聞き、それに対して質問を投げかけることのできる子が好印象だったようだ。また、ハイタッチという何気ない動作一つをとっても、楽しく相手と息を合わせて行う動作であることを考えると、ベテランの先生には、協調性がある、ふざけてしまう、身体接触に関して消極的など、いろいろな面が見えるのかもしれない。
「話の続きを創作する」「お友達同士でやり取りを行う」ということは、事前の練習が難しいということも大きなポイントだ。幼稚舎の受験対策として、どのような課題が出たとしても、自分の得意な絵にこじつけて描き、それについての質疑応答を用意しておくというものがあるが、学校側は、そういったやり取りでは子どもの本当の力を見ることができないと気づいているのかもしれない。他の日程の課題でも、事前にこれを描くぞと決め打ちしたような絵が描けない試験内容となっていることから、幼稚舎が、型にはめられたタイプではない自分で考える習慣のある子を求めていることが伝わってくる。来年度受験する方は、絵画製作の力を磨くだけではなく、聞き取り話し方や行動観察などで、その場その場で変化していく課題に対応していく力を育むことが重要になるだろう。

●考査日の変化
ここ数年の幼稚舎の考査は、女子は11月1~3日、男子は5~8日のいずれかに、逆生年月日順で行われている。女子校をはじめとする多くの学校で入学試験が行われる1~3日のいずれかで受験しなければいけない女子にとって、どの日になるのかは、併願校の選択が変わるなど受験戦略に大きく関わってくる重要な問題なのだが、分け方の基準がその年によって違うので、予測が難しい。
ちなみに、昨年までの3年間は以下のような日程だった。

  11月1日 11月2日 11月3日
2024年 9月上旬以降 5月中旬~8月下旬 4月~5月上旬
2023年 9月下旬以降 5月下旬~9月中旬 4月~5月下旬
2022年 10月下旬以降 7月上旬~10月中旬 4月~6月

では、今年はどうだったか。
人口減少に伴う受験者数の減少の流れからいけばこの流れのまま、あるいは女子の人数からして二日間で考査が終わるのではないかとの見方さえあった。しかし、実際には、10月上旬以降が1日、6月中旬から9月までが2日、それ以前に生まれた子たちは3日と、前年の考査日の基準となる生年月日より一か月も動く結果となった。毎年、東京都の人口統計等を参考に予想してみるものの、当てるのは難しい。
一方で、一か月も動くということはどういうことか。例えば、5月下旬あるいは6月上旬生まれのお嬢様がいて、ここ2年の様子から幼稚舎の考査日は2日と予測し2日に入試のある東洋英和を諦めたご家庭が、実は受験できたということになる。しかし、最初から諦めて出願していなければ、土俵に立つことすらできない。逆もまた然りで、受けられると思っていたのに受けられなかった、ということも毎年起こっている。どちらに転んでもよいように広い選択肢を持つことの重要性を改めて感じる。

今年も受験の神様を一瞬見た

神奈川の二校、そして都内もご縁を頂けないという、三連敗で早稲田実業を迎えた子がいた。学力もあり、いつもニコニコしていて申し分のない子だっただけに、悔しい気持ちでいっぱいだった。

こんなとき、保護者は不合格の理由を探してしまうものだが、入試期間中はそれをしないのが鉄則だ。なぜなら、どんなに考えても正解にはたどり着けないし、考えれば考えるほど今までやってきたことを否定し、頑張ってきたことが虚しく思えて来て、どんどんと落ち込んで子どもにもそれが伝染するからだ。人間が進歩向上するためには反省は必要という考え方を否定するわけではないが、すべてに当てはまるわけでもない。
今年のワールドシリーズで大谷選手は盗塁の際に左肩を亜脱臼したが、スライディングの練習不足だったと反省するべきなのだろうか。ヤンキースのジャッジ選手が何てことないフライを落としたことが大逆転負けの引き金になったことは周知の事実だが、彼は守備の練習不足だったのだろうか。どちらも違う。人生で一度あるかないかの大舞台で、これまで100回以上盗塁を試みても一度もなかった接触が起きて怪我することはあるし、シーズンを通して一度もエラーしたことがなかった選手が、凡ミスをすることもある。受験も同じで、普段は絶対にしないようなミスが重なって、思わぬ結果になることがある。それは誰も責められない。
受験で大切なのは、反省ではなく、いかなるときも前を見ること。先の生徒も保護者も、最後の最後に早稲田実業の一次に合格したとき、はじめてちょっとだけでも認められた気持ちになって、どれほど嬉しかったことだろう。それから二次テストの日まで、この親子は合格を信じ、すべての時間を面接の練習にあてて前向きに過ごし、受験の神様を振り向かせることができた。
今年こそはと全員合格を目指して最善を尽くし、自信を持って送り出していながらも、誰かが不合格になってしまう現実を突きつけられるたび、まるでトランプのババ抜きのようだと感じてしまう。ただ、ババ抜きで最後にババを引いても「どうして私が!?」とは思わないが、小学校受験では、毎年、「なぜあの子がご縁をいただくことができなかったのだろう」と、悔しさやら憤りやらが混じったなんとも言えない気持ちに苛まれる。
小学校受験は長丁場だ。埼玉の入試も神奈川の面接も九月から始まり、慶應義塾横浜初等部が11月下旬まで続き国立は12月までの長丁場だ。道半ばで見当違いの反省をすることなく、最後の結果が出るまで今まで頑張ってきたことを信じてやりきってほしい。そのための努力が幕を開ける。