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学校訪問
理事・吉岡俊樹が、保護者の方の視点に立って学校・先生・児童たちの魅力をお伝えするページです。いろいろな学校のことをもっと知りたいというご要望にお応えして、新設校や今注目されている学校を訪問し、先生方にお話を伺います。
昭和女子大学附属 昭和小学校
(取材:2007年12月)
江口雄輔 校長
昭和女子大学附属 昭和小学校(東京都世田谷区)
昭和28(1953)年、昭和女子大学附属校として人見圓吉により設立された。
http://es.swu.ac.jp/
—御校では、初等教育を「人としての基礎づくり」として「基礎・基本」の重要性を説いています。どのような資質の基礎づくりを目ざしているのか、お聞かせください。
江口:これからの時代、環境問題にしても国際関係にしても変化はいま以上に激しくなると考えられます。そのような状況下では、知的にも精神的にも肉体的にもたくましさが必要になってくると思いますので、子どもたちの「からだ」「こころ」「知恵」のすべてがたくましくあるべきです。そのたくましさの基礎を初等部の6年間で作っていかなければなりません。
—「からだ」「こころ」「知恵」をたくましく育む特徴的なカリキュラムは、どのようなものでしょうか。
江口:学習面で基礎・基本をしっかりと築いていくためには、「学ぶことは楽しい」と子ども自身が感じることが重要です。そのため、生活に密着した身近な素材を使って、楽しみながら理解を深めるカリキュラムを採り入れています。具体的には、算数の時間に音の速さを実際に測って計算上の数値を実測と比べる。理科の授業ではヤマメを卵から育てて成長したものを放流する――など、すべての教科で楽しく学べる工夫をしています。
また、たくましさを育てる上では、宿泊行事も大きな柱となっています。当校では卒業までに25泊の宿泊を行います。その際、異なる学年の子どもたちがペアを組み、高学年の子が下の子の世話をします。異なる年齢の子どもたちが生活をともにすることで、思いやりや協調性が自ずと生まれ、兄弟・姉妹のいない子どもの親御さんにも支持されています。宿泊中は、ミカン狩り、茶摘み、昆虫採集など自然の中で身体を動かし、たくましさを養うとともに集団生活の基本を身につけていきます。
—総合学習も御校の教育の大きな特徴であると伺っています。
江口:公立校でも「総合的な学習の時間」を設けていますが、当校の総合学習はそれとは異なるものです。総合学習とは、1年間の学習の集大成であり、さまざまな調査研究を通して内容をまとめ、人見記念講堂で発表するというものです。
この取り組みは、4月から始まり、児童一人ひとりが学年テーマに沿って研究し、夏休み明けに各児童がクラス内で発表します。その発表に基づいて部門別にいくつかのグループをつくり、秋の昭和祭でクラスごとに中間発表を行います。さらに研究を深めて、全児童と保護者の前で発表するのが2月ですから、1年間で学んだすべての教科の成果を大きな舞台で披露することになります。総合学習は設立の翌年(1954年)から継続して行われていますが、この学習法は児童の自主性を育てるとともに、応用力、創造力、コミュニケーション力の養成に非常に役立っていると思います。
—総合学習の評価は、どのような形で行われるのでしょうか。
江口:総合学習の成績査定は点数化していません。計画性、指導性、責任感、調査態度などさまざまな評定項目に基づき、教員が一人ひとりの子どもの努力と成長の軌跡を検証しながら評価を行います。総合学習の評価は学力だけでなく、人格的な成長をも見極めるという意味からも相対評価ではなく絶対評価で行っています。
—「昭和の卒業生は人の嫌がることでも進んで行う」という評判を耳にします。これはどのような学習指導から来るものとお考えでしょうか。
江口:自分のことは自分で行うという指導は確かに徹底していると思います。たとえば家庭科の授業にしても、その場だけで料理や裁縫を学ぶのではなく、「今日からもうあなたはこれができますよ」と、実生活に役立てるために学習していることを強調しています。日常生活を営むにあたっては、嫌なことでも誰かがやらざるを得ないことが生じますよね。たとえば、トイレ掃除もそのひとつです。それを早めに体験させようというのが当校の考え方です。
昭和では職員室の掃除も、校舎のトイレ掃除も6年生の仕事です。「誰かがやらなければならない仕事があって、低学年の子にはできないものなら年長者である私たちがやろう」という気持ちは6年生になると自然に芽生えていくようです。また、人の嫌がる仕事を進んで黙々とやる友だちをきちんと評価する目を昭和の子どもたちは持っています。
—平成20(2008)年度の募集人員105名に対し、受験者数は598名と、御校の人気は急速に高まっています。
江口:平成19年度に比べて、確かに受験者数は急速に増えました。正直なところ、20年度は予想以上の応募があり、この倍率が今後とも続くとは必ずしも思いませんが、都内からの通学圏に約100校ある私立小学校の中から昭和を選んでくださる親御さんが増えたことを大変嬉しく思っています。と同時に、ご両親の期待に違わぬよう、建学の精神を受け継ぎ、昭和の教育をよりいっそう充実させたいと思っています。
—御校の魅力をより高めるための課題は何でしょうか。
江口:現在、当校で重視しているのは、「ことばを教育の基礎においた取り組み」です。たとえば、算数の公式ひとつとっても、ただ丸暗記しているだけではなく、なぜその公式が導き出されたかということを、ほかの人にもわかりやすく説明できる力を育てたいのです。これは、子どもたちが異なる文化背景を持つ人々と共存していく上で非常に重要になっていきます。
—カリキュラムの中心に「伝え合うことば」を据えているのも、その現れですね。
江口:はい。そして、子どもたちのコミュニケーション能力を高めるためには、教師自ら子どもたちの心に響く魅力ある言葉で語りかけなければなりません。子どもは正直で、魅力のない言葉を話す先生の授業は聞かないからです。たとえば本の読み聞かせひとつにしても、「もっと楽しさが伝わる読み方ができないか」と日々工夫し、自ら言葉を磨き続ける教師が子どもたちに本を読めば、楽しさがもっと子どもたちに伝わり、それを誰かに伝えたいと思うはずです。そして教師は、語る言葉を磨くだけでなく、子どもたちが言わんとする言葉を聞き取るアンテナも磨いておかなければなりません。
学校の魅力は何よりも教師の質によって決まりますから、現在さまざまな形で研修会を設け、教師が日々成長できるように、その環境づくりを進めています。
以前から教育内容には定評のある学校でしたが、良く練り込まれ幾重にも重なった効果的なプログラムの奥には、校長先生の深いお考えがあることを知りました。
また、本文には書ききれませんでしたが、教頭先生の人材育成・指導力向上にかける意気込みと実行力には唸らされました。 そしてその根底には、オルゴールに代表される「互いを高めあう子ども」に導く風土が脈々と受け継がれている―――合格難関校になって然るべき学校であると感じました。
ご多忙の中、長時間にわたってお付き合いくださった江口校長先生と小泉教頭先生に心より感謝いたします。ありがとうございました。(吉岡俊樹)
エンピツをナイフで削ることから始める工作の授業。5年生から6年生にかけての半年では、120cm×30cm、厚さ1.5cmの一枚板からオリジナルのイスを作ります。世界にひとつしかない自分のイスが完成したときの喜びはひとしおです。
楽器、ピアノ、声楽を専門とする三人の先生が指導にあたる音楽の授業。美しいハーモニーを全員で奏でる楽しさを学びます。
42台の児童用コンピューターとタッチパネル式大型スクリーンのあるコンピューター室。オレンジ色のイスは、子どもたちの身長に合わせて座高と座面位置を調整できます。
各教室の廊下にはパネルボードが据えられ、クラスごとに総合学習の取り組み状況など、さまざまな学習成果が掲示されています。
センターホールにある「努力証のオルゴール」。このオルゴールを始動できるのは、その日クラスで一番努力した人に贈られる「努力証のコイン」を持つ児童。誰にその日のコインを贈るか、クラスのみんなで協議して決めます。